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         1話[紳士と老婆]

(そこはどこだったの?)

天国の裁判所で、少年は天使をみていた、

厳しい表情で、大理石の宮殿の中で、二人きりだった、

天使は必至でメモをとり、

少年は自分の姿をみつめた、

あのときとかわらない、野球帽と、どろをぬぐいきれなかったユニフォーム

(えっと、その、思い出してください)

「それはいつだっただろう。まず古臭い部屋、お店にはいったんだ、

友達の紹介で」

何かお探しですか[紳士]

少年「さがすというほどのものでもないけど、中古雑貨屋でしょう、僕のなくしたものでもうってないかと」

紳士はすこし首をひねり、ひとつのボールペンをさしだしてきた

「これは?」

紳士は少年がたずねるとまた首をひねりいった

天使の宝だ[紳士]

少年はぽつりといった

「僕は野球部のエースで、その、父との思いでのボールをひとつ…………なくした」

だが、紳士はうんともすんともこたえない。

そのボールペンをみていると、近所のお姉さんの事を考え、いてもたってもいられなく

なった、お姉さんは、とても頭がよく、進学校にかよっている。

気付いた時には店をでていて、その入り口のドアに手をかけて

ふりかえるときにすこしみえた、店の奥の客間の、隙間からのぞく

カーテンと鳥かご、とても、人間が何人もはいれそうな。

少年は三日後、紳士にいわれたように毎日の手入れをかかさなかった、

そのボールペンはホコリひとつかぶる事すら気に入らないという。

ボールペンをもって、お姉さんをつける、ボールペンでかいた手紙は効力をもつはず

「こんにちは、ボールペンを気に入ってくれたかな?それはチャンスをくれるはず」

 

 

(つけてきたのか)

ふてくされていると、紳士はいった

「あのお姉さんがすきなのかい?変だね」

「お姉さんはいつも勉強を教えてくれる、おまえこそ変だ」

にやけた紳士は続ける

あのお姉さんはねえ、悪いお姉さんなんだよああやってお金をかせいで、表では何食わぬ顔をしているのさ[紳士]

少年は無関心な顔をしていた

目に見えないふりをしていたが、悪い連中とつるんでいた、その帰り道。

だが紳士はいってはいけない事をいってしまった

少年よ お前はあんな娘よりも、大事な探し物があったのでは?

「お前は悪ものだ、だまれ、だまれえ、このペンが勇気をくれたから

だまっていたものの、ゆるさない!!」

少年は自分でも気づかないような過剰な怒りによって、そのペンを紳士のその首元へ

ふときづいたときには、つきたっていた。

「俺を殺したねえ!?」

10年後、その椅子にすわっていたのは、マフィアのボスとなった

少年の姿だった、包丁をさされたその首元には、

お姉さんのトレードマークの

いまだ飽きる事のない、

彼の願望のあめだまが、こぼれおちていた。

彼が天に昇る頃、たしかに聞こえたきがした。

ヒェッヒェッヒェ、これでまたひとつ魂をあの鳥に[老婆の声]

あと122個も必要だねえ、母さん。[紳士の声]

鳥も答えるようにないた、だが少年にその声は届かなかった。

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